「便所と梯子は建築のイロハ」だと言うんだそうですが、トイレと階段が綺麗だと家全体がとても良い雰囲気になります。
自邸のトイレに扉を設けなかった事で有名になった大先輩の建築家もいらっしゃいますが、これは中国ではごく当り前の姿であったそうです。あまりお薦めではありませんが…。
配置上、窓を作れない事も多いのですが、天窓を設けた陽光が燦々と降り注ぐトイレというのもまた、とても爽やかなものですし、最近の洋式便器は消臭機能も優れ、汚いという印象はかなり薄らいでいます。小型なものも出ており、狭いトイレが見違える程広くなって効果はすこぶる高い!です。
扉を開けて真正面に便器がましましているという事を嫌い、必ず便器の側面側の壁に入口を設けるという流儀もあるとお聞きします。なかなか配置上守れない事も多いのですが、出来るだけ努める様にはしているつもりです。
住宅で小便器を設ける事も、ごく稀にありますが、必ず奥様からお話が出るのは「掃除の心配」です。
御自分はお使いになられないのに、掃除は奥様のお仕事となる事が殆ど、そこで小便器の下には掃除のしやすい大きな材が貼られるのですが、これをその昔は「おだれ石」と呼んでいました。
実に汚さを増す名前で奥様方の反感を買った為か、今はあまり使われなくなった呼び名です。
住宅の場合、掃除の利便性だけを考えて選んだ材料が、一層汚いイメージを増してしまい、かえって汚してしまう事の方が多い様に思えます。
我家では実験の意味も込めて、わざと「テラコッタタイル」という素焼きの感触がとても良いスペインのタイルを素地のまま床に使用しています。不思議と、美しいその素材は「汚さぬ様に気をつけよう」という気に皆をさせている様で、決して汚らしくはならないもので、かえって掃除は楽です。
廊下やリビングと、あまり素材を変えない事で「汚い」という印象が払拭され、逆に綺麗に使う様になる様です。
一方、マンションや平家にお住いの方には申し訳ないですが、「階段」はとても魅力的な空間装置で、舞台装置や映画でも、階段が出てくると、ちょっとゴージャスな印象になります。建築家達もこぞって腕を競う部分です。
片方の壁から踏板だけが出ている「キャンティレバー階段」や、細い鉄骨を使いエレガントに作った螺旋階段をあえて家の真中に設えて部屋の仕切を兼ねてみたり、ヨット等で使われている 左右の踏板が交互に上がって行く「踏み違い階段」をあしらってみたりと、枚挙に暇がない程です。
階段とは別にスロープを設けたル・コルビジェの「サヴォア邸」も有名ですし、
階段には「踊場が無ければならない」、「本棚が無ければならない」などといった流儀もあったそうで、古今東西の建築家が色々と趣向を凝らしています。
住宅の階段は急勾配でも許されますが、面積を取ってでも緩い勾配にすべきです。
階段の部分的な呼び名ですが、足で踏む段板の部分を踏面とかいて「ふみづら」と呼び、それに対して垂直面を蹴込「けこみ」その高さを蹴上「けあげ」と言います。
一般に「踏面+蹴上=450mm前後」、或は「踏面+(蹴上の2倍)=600mm前後」がちょうど良いといわれていますが、住宅の場合は踏面225mm蹴上225mmの45°の階段も一般的です。法律上はもっと急勾配の「踏面150mm以上、蹴上230mm以下」であれば良いのですが(因に、巾は750mm以上)僕はこれではあまり「優雅」とは言えないと思い、踏面250mm蹴上200mm位にはするように心掛けています。参考までに、螺旋階段の場合は踏面の寸法は狭い方から300mmの位置の寸法となります。
とてもゆったりした階段とは踏面300mm蹴上150mmの緩い勾配の階段ですが、これは45°の急勾配の階段の倍の面積を必要とする訳ですからとても贅沢なのです。
でも、日に何度も昇り降りするならば、その度に辛〜い気持ちになるよりも「優雅」でありたいですよね。
トイレと階段、それは玄関脇に追いやってしまわないで、もっと家の中心に出て来てもらいたい名脇役達なのです。