住宅の「窓の明るさ」は建築基準法でもかつては壁にある窓と天井にある窓(3倍です!)の違いだけだったのですが、最近になって壁にある窓でも、上階の方が明るい事を考慮に入れて計算する様になりました。
これは採光補正係数といい、向かいの建物や敷地境界線までの距離が同じ窓であれば上にある窓程明るいという評価をしてもらえます。同じ大きさ、向きの窓でも、上階の方が明るく、眺望も良いものです。
マンションでも上階から埋まっていくといわれているように、日照や眺望が日常生活に与える影響は並み大抵の事ではありません。
なのに何故か大抵、一戸建ての家の食堂やリビングは1階ですね。
わざわざ日中の快適な時間を暗い1階で過ごして、日が暮れてから2階に上がって寝ているのです。なんとも不合理な話ではないでしょうか?
昔の民家は敷地も300坪が標準でしたから庭も広大で1階にも燦々と日が降り注ぎ縁側で快適に日向ぼっこが出来ました。更に言えば、もともと家は夏の暑さに対処する為に設計されており、日が当たらぬ様に庇を深々と出していた位なのです。
江戸時代までは水道が整備されている訳でもなく、井戸でしたから、家屋は基本的に平家建てで、2階はほんの屋根裏部屋、リビングや水周りを設ける事はものすごく大変な事でした。
この地面への執着が見事に破られたのは20世紀も半ばを過ぎた頃でした。「スカイハウス」(菊竹清訓:1958年)と「軽井沢の山荘」(吉村順三:1962年)…2大巨匠がいざ自分の家をと考えた時 、各々に都市と森という立地の違いはあるものの、日常生活の視点を高い位置に持ちたいという欲求は共通していたのです。
お買物したら、全部2階に持って上がるの?と奥様にお叱りを受けそうですが、日々その快適さを享受するのも、またその奥様ご自身なのです。