建築家梅田達也の「家づくりアドバイス」その3

門外不出の秘伝

家相で家が建つならば
建築家なんていらない

 ようやく基本設計が終わったかという時に、若いお施主さんから電話があった。話を聞くと、家相に詳しいと自称するご親類のお爺様が、図面を見て「家相が良くない」と数箇所を指摘して帰ったという。今更という気持ちと、それをどう処遇したら良いのか分からないのとで、すっかり不安になってしまった様子。事務所に相談に来て戴いた。
「科学的に見ても正しい家相もありますが、それだけで家が成立する訳ではありません」と説明をし、どうしても気になさる部分については、若干の変更を加えた。

 しかし、家相の大家という方に電話で聞くと、曰く
「元来、家相とは、中国で王が宮廷を建築するにあたり、易者にその吉凶を占わせたもの。元来、門外不出の秘伝であった筈ですから、こう言っては何ですが庶民の分際で家相を知っているという事はあり得ない筈なのです。」
 どうした事か科学的な現代人程、この手合いのある種非科学的な話にとても弱い。世の中にも「家相」に纏わる書籍の類いは溢れており、何を勘違いしたかそれを逆手に取って先にこちらから「家相」の本を書いて先制攻撃を掛けてしまう建築家もいる程…。「たたる」とか「ばちが当たる」と言われると、非科学的なだけにどうして良いか悩んでしまうのである。
「家相はそうおいそれと素人が口にすべきものではなく、私達の様に占術をきちんと修めた者のみが出来る事。手相や人相は見られないけど家相は見られるという事は絶対にありえない」と家相の大家に釘を刺された。
 世の中にしたり顔をして「家相見」等をする人は多いものであるが、易学の専門家から見てもこれは大変に迷惑なものである様だ。

 その話を、秩父の慈眼寺のご住職にすると、方丈様はからからと笑って、「そんじゃお前、南極点や北極点に家を建ててる奴はどうするんだぁ!方位盤の針なんかくるくる廻っちまうだけで、使い物になりゃしないじゃないか!」と、戒められた。
 現代において、易、占いの類は迷っている人に決心のきっかけを与えてくれる為のものであって、それ以上の物では無いのではないだろうか。

 本来、設計とは「迷いを取り去る仕事」なのです。迷ってもいないのに惑わされては困りますね。

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